旅に出かけたら、その土地の銘酒を味わうのも楽しいですよね。

訪れた証に、"御朱印"ならぬ"御酒飲"を。ということで、今回は兵庫県加西市への旅で訪れた酒蔵を紹介します。

伝説の僧が開いた法華山一乗寺

法華山一乗寺の石段

JR姫路駅からバスに揺られること約40分、法華山一乗寺に着きました。一乗寺は、西国三十三所の第二十六番札所にあたる、天台宗の寺院です。

650年に孝徳天皇の勅願で建てられたと伝えられる古刹で、開祖は法道。天竺(てんじく)から紫の雲に乗って日本に飛来したといわれる法道は、仙術で鉢を飛ばして里の人々からお布施を受けていたため「空鉢仙人(からはちせんにん)」ともいわれています。

境内に入って石段を上がると、懸造り(かけづくり)の舞台を持つ本堂が見えてきました。本堂は1628年に再建されたもので、重要文化財に指定されています。本尊は銅造の聖観音立像で、ふだんは厨子(ずし)の中に納められている秘仏ですが、2017年の春と秋に行われた本堂の内陣拝観で特別に公開されました。

御詠歌に「春は花 夏は橘 秋は菊 いつも妙なる法の花山」という一節があるように、桜や紅葉の名所としても知られ、特に紅葉で境内が彩られる時期には多くの観光客でにぎわいます。

法華山一乗寺・本堂外陣の天井

本堂外陣の天井には、江戸時代の巡礼者が打ち付けたという多数の納め札が、今も残っています。

法華山一乗寺の三重塔

本堂の舞台からは、国宝の三重塔を見ることができます。伏鉢(ふくはち)という、相輪の下部にある半球状の部材に「承安元年(1171年)」の刻銘があり、建立年代が平安時代末期とわかる唯一の塔といわれています。

国宝の絵画や鎌倉時代に建築された護法堂、室町時代の妙見堂、弁天堂、「元亨元年(1321年)」という建立の銘がある五輪塔など、多数の文化財があり、ゆっくりと巡りたい寺院です。

地元の酒米だけで仕込む、全量純米蔵

そんな一乗寺から山を下ると、麓に酒蔵があります。富久錦株式会社です。

富久錦株式会社の外観

銘柄名でもある「富久錦」は、一乗寺の優美な紅葉をあらわす「錦」とめでたい「富久」を合わせたもの。創業1839年で、今年で180年目を迎えます。1992年から純米酒のみを、1996年からは地元・加西市産の米のみを使った酒造りに取り組んできました。

事前に予約をすると、酒蔵見学が可能。スタッフの方々が酒造りの工程を説明しながら案内してくれます。

仕込みタンクの数は14本。小さな蔵だからこそ、この場所でしか醸せない、心に響く酒を造り続けたいと考えているそうです。蔵に残っていた8本の木桶を解体・加工して作った2本の木桶を使っています。この木桶で仕込んだ新酒が、今春にできあがる予定なのだとか。

毎年10月には、杜氏自身が案内するスペシャルな蔵見学会が、11月下旬には新酒のお披露目に合わせた蔵開きが行なわれます。

富久錦株式会社の直営ショップ「ふく蔵」

築100年を超える酒蔵を改装した直営ショップ「ふく蔵」は、富久錦の考えや思い、情報を発信する場所として、2001年にオープンしました。日本酒の販売はもちろん、同じ思いを持った生産者による食品や調味料なども取り揃えています。販売している富久錦は、すべて試飲可能です。

2階にあるレストランでは、旬の地野菜を中心にしたランチや土日限定のディナーが提供され、予約必須の人気店になっています。

美味しさを更新していく新銘柄「純青」

それではおまちかねの御酒飲です。最初にいただいたのは「純青 兵庫夢錦 生酛純米吟醸」

純青 兵庫夢錦 生酛純米吟醸

「純青(じゅんせい)」は、 先人から伝えられてきた造り方をもう一度見直し、あらためて、自分たちが美味しいと思う酒を自分たちのやり方で表現しようとするシリーズです。

もうひとつの御酒飲は、「ふく蔵」でも人気の「Bucu(ブク)」

富久錦のスパークリング日本酒「Bucu(ブク)」。

加西市産のキヌヒカリを使い、果物のような甘味を引き出した、瓶内二次発酵のスパークリング純米酒です。さっぱりとした味わいで飲みやすく、お土産として買ったつもりが、帰りのバスを待つ間に飲み干してしまいました。

法華山一乗寺で西国三十三所観音霊場の"御朱印"をいただいた後は、新たなチャレンジを続ける酒蔵で"御酒飲"。この春は、桜の景色が美しい兵庫県加西市を旅してみてはいかがでしょうか。

(文/天田知之)

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